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がん総合診療体制

食道がん

Ⅰ. 食道がんの基礎知識

1日本における食道がん患者数の推移

食道がん患者数の推移

食道がんの2012年の地域がん登録による推計罹患(りかん)数は総数21,965、男性 18,583、女性 3,382です。2016年の予測罹患数は総数22,800、男性19,500、女性3,300です。2015年の人口動態調査による死亡数は総数11,739、男性9,774、女性1,965です。2016年の予測死亡数は総数21,200、男性9300、女性1900です。罹患率は、男性では1975年以降増加傾向、女性でははっきりとした増減の傾向はみられません。死亡率の年次推移は、男性では戦後大きな増減はなく近年は漸減傾向、女性は1960年代後半から1980年代後半まで急激に減少し近年は漸減傾向にあります。
罹患数、死亡数ともに男性のほうが多く、女性の5倍以上です。生涯で食道がんに罹患する確率は、男性2%(45人に1人)、女性0.4%(228人に1人)。 生涯で食道がんで死亡する確率は、男性1%(91人に1人)、女性0.2%(489人に1人)。年齢別にみた食道がんの罹患率、死亡率は、ともに40歳代後半から増加しはじめ、特に男性は女性に比べて急激に増加します。
罹患率の国際比較では、日本人は他の東アジアの国の人や、アメリカの日本人移民に比べて高い傾向があります。

部位別がん死亡数の推移

2食道がんの原因

食道がんでは喫煙と飲酒が確立したリスクとされています。特に扁平上皮癌(日本では食道がんの90%以上が扁平上皮癌)では、喫煙と飲酒が相乗的に作用して、リスクが高くなることも指摘されています。お酒を毎日飲んでいる人はお酒を飲まない人と比べ、食道がんが発生するリスクが2倍とされています。一回の飲酒量か多くなればなるほどそのリスクは高まり、2合以上飲む人は4.6倍高くなっています。お酒に含まれているアルコールは、体内に入るとアセトアルデヒドという物質に変化します。これは発がん物質の一つと考えられています。お酒に強い人はアセトアルデヒドを分解して無害にする酵素をたくさんもっています。しかし、酵素が少ない人は分解しきれずに体内にたまってしまいます。日本人は民族的にアセトアルデヒトを分解する酵素が少ない人が約40%います。お酒を飲むとすぐに顔が赤くなる人などが該当します。酵素活性が弱いにもかかわらず、付き合いなどで飲みはじめ、週に5日以上、一合以上飲み続けると、食道がんになるリスクは、飲まない場合に比べて約5倍になることが明らかになっています。
喫煙については、過去に喫煙していた人や現在も喫煙している人では非喫煙者に比べ3倍以上リスクが高く、しかも喫煙本数が多く喫煙期間が長いほどリスクが上昇します。
熱い飲食物がリスクを上昇させるという研究結果も多く報告されています。熱い食べ物を日常的に摂っていると食道が刺激を受け、細胞が変異しがん化する可能性が高くなります。東北地方など寒い地域では熱い食べ物や飲み物を習慣的に摂るため、食道がんを発症する人が多いという特徴があります。食道がんが多くみられる南ブラジルやウルグアイでは、熱いマテ茶を飲む習慣があります。中国や香港からも、熱い飲食物によって食道がんになるリスクを上げることを示す研究結果が多く報告されています。
予防要因では、野菜・果物の摂取がリスクを下げるとされています。

都道府県別 年齢調整死亡率

食道がんに罹った人は咽頭や口、喉頭などにもがんができやすく、咽頭や口、喉頭などのがんに罹った人は食道にもがんができやすいことがわかっています。
近年、欧米で急増している腺癌では、食べ物や胃液などが胃から食道に逆流する「胃・食道逆流症」に加え、肥満により確実にリスクが高くなるとされています。生活習慣や食生活の欧米化により、今後はわが国でも腺がんの増加が予想されます。海外の情報を参考にするときには、腺がんの情報が多く含まれるので、同じ食道がんでも細胞の種類を確認して情報を読み解く必要があります。

3食道がんの症状

早期の食道がんは自覚症状が出ることは少なく、早期発見するためには検診を定期的に受診することが大切です。とくに喫煙と飲酒をする50歳以上の男性は定期検診をお勧めします。
食べ物を飲み込んだときに胸の奥がチクチク痛んだり、熱いものを飲み込んだときにしみるように感じる症状は、食道がんの初期のころにみられます。軽く考えないで、内視鏡検査を受けることをお勧めします。がんが少し大きくなると、このような感覚を感じなくなるので気にしなくなり、放っておかれてしまうことも少なくありません。
がんがさらに大きくなると、食道の内側が狭くなり、食べ物がつかえるようになります。丸呑みしがちな刺身やすしなどを食べたとき、あるいは肉などをよく噛まずに食べたときに生ずることが多い症状です。このような状態になっても軟らかいものは食べられるので、液体で流すようにして食事は続けられます。また、胸の中の食道が狭くなっても、喉がつかえるように感じることがあります。喉の検査で異常が見つからないときは、食道も検査しましょう。
がんがもっと大きくなり、食道を塞ぐと水も通らなくなり、唾液も飲み込めずにもどすようになります。
食べ物がつかえると食事量が減り、低栄養となり体重が減少します。3ヵ月間で5~6kgの体重が減少したら、注意してください。
がんが食道の外に出て周りの肺や背骨、大動脈を圧迫すると、胸の奥や背中に痛みを感じるようになります。これらの症状は、肺や心臓などの病気でもみられますが、食べ物がつかえる症状もあったら肺や心臓の検査だけでなく食道も検査してもらうようしてください。
食道がんがさらに進行して気管、気管支、肺へ及ぶと、むせるような咳(特に飲食物を摂取するとき)が出たり、血の混じった痰が出たりするようになります。
食道のすぐ近くに声を調節している神経があり、この神経ががんで壊されると声がかすれます。声に変化があると、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診する場合が多いのですが、喉頭そのものには腫瘍や炎症はないとして見すごされることもあります。食道がんも疑って、食道の内視鏡検査を受けることをお勧めします。

4食道の機能と構造

食道は、のどと胃の間をつなぐ長さ25cm、太さ2~3cm、厚さ4mmほどの管状の臓器で、口から胃へ食べ物を送る働きをしています。食道の大部分は胸の中、一部は首(約5cm、咽頭の下)、一部は腹部(約2cm、横隔膜の下)にあります。食道は胸の中心部にあり、胸の上部では気管と背骨の間にあり、下部では心臓、大動脈と肺に囲まれています。
食道の壁は、内側から外側に向かって粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層でできています。食道の内側は食べ物が通りやすいように、粘液を分泌するなめらかな粘膜でおおわれています。その表面は上皮と呼ばれます。粘膜の下には血管やリンパ管が豊富な粘膜下層があります。食道の壁の中心は食道の形を作り、動きを担当する筋層です。筋層の外側の外膜は周囲臓器との間を埋める結合組織で、膜状ではありません。
食道は、口から食べた食物を胃に送る働きをしています。食物を飲み込むと重力で下に流れるとともに、食道の壁が動いて食べ物を胃に送り込みます。食道の出口は胃内の食物の逆流を防止する構造(噴門)になっています。食道には消化機能はなく、食物の通り道にすぎません。

食堂オリンパス 食堂断面

5食道がんの発生と進行

日本人の食道がんは約半数が胸の中の食道の中央付近から発生し、次いで1/4が食道の下部に発生します。食道がんは食道の内面をおおっている粘膜の表面にある上皮から発生します。日本では食道がんの90%以上が扁平上皮癌です。欧米では胃がんと同じ腺癌が増加しており、現在では半数以上が腺癌です。腺癌のほとんどは胃の近くの食道下部に発生します。頻度はまれですが、食道にはそのほかの特殊な細胞でできたがんもできます。未分化細胞癌、がん肉腫、悪性黒色腫などのほかに、粘膜ではなく筋層などの細胞から発生する消化管間質腫瘍(GIST)も発生することがあります。
粘膜から発生したがんは大きくなると粘膜下層に拡がりがり、さらにその下の筋層に入り込みます。もっと大きくなると、食道の壁を貫いて食道の外まで拡がっていきます。がんが大きくなると食道の周囲の気管・気管支や肺、大動脈、心臓などに拡がります。これを浸潤といいます。
食道の壁の中と周囲にはリンパ管や血管が豊富です。がん細胞はリンパ液や血液の流れに入り、食道とは別のところに流れ着いてそこで増え始めます。これを転移といいます。リンパの流れに入ったがん細胞はリンパ節にたどり着いてかたまりをつくります。食道の周りのリンパ節だけではなく、腹部や首のリンパ節に転移することもあります。血液の流れに入ったがん細胞は、肝臓、肺、骨などに転移します。

6食道がんの検査

食道がんの診断方法には、内視鏡検査とX線(レントゲン線)による食道造影検査があります。そのほか、がんの拡がり具合をみるためにCT検査、MRI検査、内視鏡超音波検査、超音波検査などを行います。

①内視鏡検査
内視鏡検査は、病変を直接観察できます。病変の位置や大きさだけでなく、拡がりや表面の形状、色調などからがんの浸潤の深さを判断することができます。内視鏡精密検査では、光の波長を制御する狭帯域光観察(NBI)で粘膜表層の毛細血管や、わずかな粘膜の肥厚、深部血管などを強調して映し出し、通常光による観察では見えにくかった拡がりや早期病変の観察をできます。
内視鏡検査では、直接組織を採取し(生検)、顕微鏡でがん細胞の有無を確認することができます。
内視鏡検査は無症状あるいは初期の食道がんを見つけるために極めて有用な検査であり、たとえレントゲン検査で異常が認められなくても内視鏡検査で発見されることもあります。

②食道造影検査(X線検査)
バリウムをのんで、それが食道の中を通過するところをX線で撮影する検査です。造影検査では、がんの場所やその大きさ、食道内腔の狭さなど全体像がみられます。
日本人は胃がんにかかる人が多いので、検診では胃の検査に重点が置かれ、食道は十分に観察されないことがあります。症状があれば、検査前にはっきりと伝えておきましょう。

③病理検査
内視鏡検査で採取した組織にがん細胞があるのか、あればどのような種類のがん細胞か、顕微鏡を使って調べることを病理検査といいます。

④CT検査(コンピューター断層撮影)
CT検査は、X線を使って体の内部を輪切りにしたようにみることができる検査です。がんの周辺の臓器への拡がりや転移を調べます。CT検査は、がんと気管・気管支、大動脈、心臓などの周囲臓器との関係を調べるために、最も優れた診断法といえます。リンパ節転移の存在も、頸部、胸部、腹部にわたって調べることができます。さらに肺、肝臓などへの転移の診断にも欠かせません。進行したがんの進行度を判定するために最も重要な検査です。

7食道がんのステージ分類

食道がんがどの程度進んだものであるかを示すステージ(進行度)は、がんの深さ(T)、リンパ節転移の程度(N)、遠隔転移の有無(M)によって決まります。ステージ分類には国際的に使われるUICC分類と日本独自の日本食道学会規約があります。

日本食道学会規約

がんの深さ(T)

TX:がんの深さの判定が不可能

T0:がんを認めない

T1a:がんが粘膜内にとどまる病変

T1b:がんが粘膜下組織にとどまる病変

T2:がんが固有筋層にとどまる病変

T3:がんが固有筋層を越えて、外膜に浸潤する病変

T4:がんが周囲臓器に浸潤する病変

T4a:切除できる周囲臓器に浸潤している病変

T4b:切除できない周囲臓器(大動脈、期間、気管支、肺静脈、肺動脈、椎体)に浸潤している病変

リンパ節転移の程度(N)

NX:リンパ節転移の程度が不明

N0:リンパ節に転移を認めない

N1:第1群リンパ節に転移を認める

N2:第2群リンパ節に転移を認める

N3:第3群リンパ節に転移を認める

N4:第3群リンパ節より遠くのリンパ節に転移を認める

遠隔臓器転移の有無(M)

M0:遠隔臓器転移を認めない

M1:遠隔臓器転移を認める

がんの深さ(T)、リンパ節転移の程度(N)、遠隔転移の有無(M)から判断し、下図のとおりステージを診断します。
食道がんは早期である0からⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳa、Ⅳbという順に進行していきます。

  N0 N1 N2 N3 N4 M1
T0、T1a Ⅳa Ⅳb
T1b Ⅳa
T2 Ⅳa
T3 Ⅳa
T4a Ⅳa
T4b Ⅳa Ⅳa Ⅳa Ⅳa Ⅳa
8食道がんの進行度と治療適応

検査の結果を総合的に評価して、がんのステージと全身状態から治療法を決めます。食道がんの治療には大きく分けて4つの治療法があります。それは、内視鏡治療、外科治療(手術)、放射線治療と化学療法(抗がん剤)の治療です。ある程度進行したがんでは、外科治療、放射線治療、化学療法を組み合わせて相乗効果を出す集学的治療が行われます。

食道がん治療は、ステージを診断し、各ステージに合った最適な治療を行うことが大切です。川崎幸病院では、ステージ診断および治療法の選択については食道癌診療ガイドラインに沿って判断をし、最新かつ標準的治療を行っています。また、治療法を選択するのは患者さんとご家族です。あくまでも患者さんとご家族の選択を尊重し、理解と納得をいただけるまで充分にわかりやすく説明をさせていただきます。

以下はあくまでも標準的な治療適応の目安になります。
ステージ0:内視鏡的切除
ステージⅠ:手術、化学療法+放射線療法
ステージⅡ,Ⅲ:術前化学療法+手術、化学療法+放射線療法
ステージⅣa:化学療法+放射線療法
ステージⅣb:化学療法

食道がんの治療NHK

9各治療法について

内視鏡的切除

内視鏡的切除とは、口から内視鏡を挿入し、内視鏡の先端からナイフを出し、がん病巣を切り取ります。内視鏡だけでがんを切除することができるため、身体への負担が少なく、食道を温存することができる治療法です。内視鏡的切除が適応となるがんは、早期でリンパ節に転移のある危険性がほとんどない場合に限られます。切り取った組織は顕微鏡で病理検査をし、がんの取り残しが無いか調べます。

外科手術

手術は体からがんを切り取ってしまう方法で、食道がんに対する最も標準的な治療法です。手術ではがんを含め食道を切除します。同時にリンパ節を含む周囲の組織を切除します。食道を切除した後には、胃や腸を使って食物の通る新しい通路をつくる再建手術を行います。食道は頸部、胸部、腹部にわたっていて、がんの発生部位によって選択される手術術式が異なります。
リンパ節に転移がある、または可能性がある場合、再発・転移の防止のために手術前に化学療法を行うことが推奨されています。手術前に化学療法を行う方が手術単独より再発する人が少ないとされており、全身状態をみながら可能な場合には術前化学療法を行います。

化学療法(抗がん剤)

がんが周囲の臓器に浸潤していたり、他の臓器に転移が認められ、手術だけではがんをすべて取り除くことが難しい場合、化学療法を選択します。がんの縮小を認めることもありますが、全てのがんを消失させることは困難です。化学療法を用いることでがんの進行を遅らせ、がんの縮小やがんに伴う炎症の軽減などによりがんの症状を緩和させることが期待でき、生活の質(Quality of Life)の向上をはかることができます。しかし、化学療法に用いる抗がん剤はがん細胞を攻撃する働きがありますが、その作用は正常な細胞にもおよぶため、いろいろな副作用が現れます。化学療法では副作用は避けて通れないものですが、副作用の発現をできるだけ抑えながら、効果を最大限に引き出すようにします。

放射線治療

食道の扁平上皮癌は放射線治療の効果が高いことが知られています。高エネルギーのX線などの放射線をあてて、がん細胞を傷つけ消失させます。放射線治療は手術と同様に限られた範囲のみを治療できる局所治療ですが、機能や形態を温存することができます。放射線治療は、1日1回、週5日、6週から7週(抗がん剤治療との同時併用の場合には5週から6週)続けます。放射線治療は、治療の目的により2つに分けられます。がんを治すことを目的にした治療(根治治療)と、がんによる痛みや出血などの症状を抑えたり、食べ物の通り道を確保しようとする治療(緩和治療)です。

根治的化学放射線療法

放射線治療の技術も進歩し、以前に比べて低侵襲かつ高い精度で安全に行えるようになりました。別の臓器(肝臓や肺、遠くのリンパ節)への転移がなければ、放射線と化学療法を組み合わせて行うことでがんの消失も期待できます。手術は可能だが手術を受けたくない方や、心臓や肺の状態や年齢などの理由で手術が難しい方などに、手術の替わりに行いうる治療です。治療方法を選ぶことのできる患者さんには、手術を選ぶか、化学放射線療法を選ぶか、それぞれの長所・短所を知った上で、慎重に判断していただく必要があります。

サルベージ手術

化学放射線療法で治療した後、がんが残っていたり一旦消えたがんが再発した場合に切除が可能であれば、唯一の救済手段として手術を行うことがあります(サルベージ手術)。サルベージ手術では通常の手術に比べて合併症が多く生じることから、実施に当たっては十分なインフォームドコンセントを経た上で、全身状態から総合的に判断されます。