WATCHMAN(左心耳閉鎖術)
脳出血、消化管出血などの出血リスクが高くワルファリンなどを長期間服用できない方
心房細動患者さんの脳卒中リスクに対する代替療法
はじめに
ワルファリンなどの抗凝固薬は50年以上にわたって心房細動患者さんの脳卒中リスク低減に使用されてきました。
一方、心房細動患者さんにおいて抗凝固薬の適応であっても、出血リスクが高い等の理由で長期間の服用が困難な患者さんがいらっしゃいます。
心房細動と脳卒中の関係
脳卒中になるリスクは年齢、人種や性別を問わず、誰でも脳卒中になる可能性があります。
脳卒中になるリスクは、以下に上げる特定の危険因子によって上昇します。
- 心房細動
- 冠動脈疾患
- 糖尿病
- 高血圧
- 高コレステロール
- 睡眠時無呼吸症候群
心房細動とは
心房細動は、心臓の拍動が不規則になる病気の一つで、心臓から血液を正常に送り出せない病気です。
心臓の拍動リズムが正常な場合、血液は心室に送り込まれた後、全身に再び送り出されます。
心房細動は、心臓上部の二つの部屋(心房)が異常に速く不規則なリズムで拍動(細動)している状態のことをいいます。
心房細動には、自覚症状がある場合とない場合があります。
自覚症状がある場合、以下のような症状が認められます。
- 動悸(突然鼓動を強く感じる、胸のもやもや感・踊るような感じ)
- 疲労感または倦怠感
- めまい・ふらつきまたは失神
- 胸の痛み、圧迫感または不快感
- 息切れ
心房細動に最も多い合併症が脳卒中
心房細動は、心臓が血液を正常に送り出さないため、血球が滞留しお互いにくっついてしまうことで、心臓の左心耳と呼ばれる部分に血栓が形成されます(図A)。
その血栓が剥がれて脳へ血液を供給する血管をふさいだ場合、脳への血液供給が妨げられることが原因となり、脳卒中が起こります (図B)。
心房細動で起こる脳卒中
心房細動の患者さんは、心臓の拍動リズムが正常な人と比べて脳卒中のリスクが5倍高くなります。
また、脳卒中の原因となる血栓の90%以上が心臓の左心耳内で形成されています。
心房細動に対し適切に対処しないと、正常な心調律に比べて、脳卒中のリスクが高くなります。
脳卒中の徴候として以下のような症状が認められます。
- 顔面、腕や脚(特に体の片側)の突然のしびれ、脱力感や麻痺
- 突然の錯乱や発話障害、会話の内容が理解できなくなる
- 片眼または両眼が見えにくくなる
- 突然の歩行障害、浮動性めまい、平衡障害、協調運動障害
- 原因不明の突然の重度頭痛など
以下の質問への回答が「はい」の場合、
WATCHMANが適している可能性があります。
- 心房細動がありますか?
- 心房細動に対して、担当医が抗凝固薬の服用を勧めていますか?
- ワルファリンを服用できるものの、下記の理由のいずれかのために長期抗凝固薬の代替療法が必要ですか?
- 抗凝固薬服用期間中の重篤な出血歴がある
- 現在、重篤な出血リスクがある状態である
WATCHMAN(左心耳閉鎖術)
ワルファリンなどの抗凝固薬を長期間服用できない心房細動患者さんの脳卒中リスクに対する新しい代替療法です。
そのため心房細動そのものが治療できるものではありません。
左心耳閉鎖術
左心耳閉鎖(LAAC)デバイスは、1回限りの手技において全身麻酔下で心臓に留置されます。
取り替える必要がない永久的なデバイスで、体の外からは見えません。
このデバイスを留置するため、医師は標準的なステント留置手技と同様、脚の付け根に小さな切り込みを入れて細い管(カテーテル)を挿入し、次に心臓の左心耳までデバイスを誘導します。手術時間は1~2時間程で、一般的に手技の翌日から歩行が可能です。
治療手順
© 2021 Boston Scientific Corporation. All rights reserved.
WATCHMANは500円硬貨ほどのサイズであり、胸を開く手術をする必要性がありません。
1.
脚の付け根に小さい切り込みを入れて細い管(カテーテル)を挿入します。
2.
カテーテルを通してWATCHMANを左心耳(LAA)に誘導します。
3.
手技は全身麻酔下で行われ、約1時間を要します。WATCHMANを留置した患者さんは一般的に手技の翌日から歩行が可能です。
4.
手技後、左心耳(LAA)が閉鎖されるまでワルファリンを服用します。通常は手技後から約半年間服用します。
5.
この期間に、WATCHMANを覆うように内皮化が進んで、左心耳が閉鎖します。
WATCHMANのメリット
-
1
脳卒中リスクの低減
心臓内に永久留置することで脳卒中の原因となる血栓を形成することが多い左心耳を閉鎖します。
-
2
ワルファリンの服用中止が可能に
当院では、原則留置後半年でワルファリンを中止しています。
-
3
体への負担が少ない
胸を開く手術をせずに脚の付け根からカテーテルを挿入する方法で、一般的に手術翌日から歩行が可能です。
入院から退院について
治療後のこと
WATCHMAN治療後の日常生活で気をつけていただきたいこと
留置後、一定期間はワルファリンなどの抗凝固薬等を飲み続け、その後中止します。
心臓の中でWATCHMANを覆う内皮が左心耳を閉鎖するまでワルファリンなどを服用してください。自己判断で中止はせず、医師の指示に従ってください。
野菜、魚や肉類、乳製品など、栄養を考えたバランスの良い食事を摂りましょう。
とくに、摂取カロリーや水分、塩分の量は、医師の指示に従ってください。なおサプリメントの摂取には注意が必要です。とくにカルシウムは生体弁組織の耐久性を弱めるとされているので、医師に相談して下さい。
運動レベルは医師と相談して決めましょう。
運動プログラムに従った適度な運動は、心臓の負担を軽減しライフスタイルを維持するためにも重要となります。
また、新たなスポーツを始める際は、医師に相談してください。
治療費
2023.9月更新
検査・手術内容 | 入院 日数 |
請求予定金額 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
70歳未満 | 70歳以上 | ||||||
3割負担の 場合 |
一般 (1割負担) の場合 |
一般 (2割負担) の場合 |
現役並み 所得者 (3割負担) 区分Ⅰの場合 |
現役並み 所得者 (3割負担) 区分Ⅱの場合 |
現役並み 所得者 (3割負担) 区分Ⅲの場合 |
||
WATCHMAN(左心耳閉鎖術) | 約5日間 | 約80万円 | 約6万円 | 約6万円 | 約9万円 | 約17万円 | 約26万円 |
※循環器科の手術に使用する材料はそれぞれ金額が高額な為、使用本数や種類により請求額に差が生じます。上記の金額は必要最低限の材料となっております。
高額入院費が予想される70歳未満の患者さまへ
限度額適応認定証の原本は入院当日にご持参ください。
医療費の自己負担分(一部負担金)が自己負担限度額以上になった場合に適応になります。保険者で手続きしていただくと、患者さまは保険診療分における自己負担限度額(食事代・個室代等は別途実費負担)のみを病院にお支払いいただき、差額分については保険者が病院へ支払う形になります。
申請等の詳細につきましてはクリニック・病院の窓口でもご説明させていただきますので受付でお声がけください。(70歳以上の方は申請は不要です)
Q&A
一般的な抗凝固薬であるワルファリン治療をしている患者さんで、出血リスクが高い等の理由で長期間内服できないと医師により判断された患者さんが対象です。
手術後、原則半年間継続し経食道心エコー検査が問題なければ中止可能です。(最短45日で中止可能です)
手術前検査は、心臓超音波検査、経食道心エコー、造影CT検査、その他(採血や心電図など)を行います。
ご本人の状態にもよりますので担当医とご相談ください。
元々高齢の方向けの代替療法です。ご本人の希望の上、診察にて検討させていただきます。
外来受診のご案内
第二川崎幸クリニック 循環器内科
医療機関の皆様へ
当院では外来分離を実施しており、通常外来は川崎幸クリニック・第二川崎幸クリニックにてお受けしています。
川崎幸クリニック・第二川崎幸クリニックは完全予約制になっていますので、予約専用電話にてご予約ください。
※当日診療が必要な患者さんをご紹介いただく場合
救急で受診を希望の場合は、川崎幸病院の救急外来で対応いたします。まずは地域医療連携室に電話でご連絡ください。
川崎幸クリニック・第二川崎幸クリニック 診察のご予約
川崎幸クリニック・第二川崎幸クリニック 電話予約受付時間
平日 午前8:00~午後8:00
土曜 午前8:00~午後5:00
日曜 午前9:00~午後5:00
川崎幸病院地域医療連携室
TEL044-544-4638(地域医療連携室直通)