大動脈瘤について 詳細編

大動脈解離とは?定義・分類、症状、治療方針

大動脈解離

川崎幸病院 川崎大動脈センター センター長/大動脈外科部長 大島 晋

大動脈解離とは大動脈を構成する内膜、中膜、外膜のうち内膜が破れることによって中膜に血液が入り込む状態のことをいいます。 急性期には解離した血管の壁が薄くなり破裂を起こす可能性や解離によって主要臓器への血流が遮断される事による臓器充血、心臓の周囲に血液が溜まる心タンポナーデなどの合併症があります。

定義・分類

定義

大動脈解離は、大動脈内膜に生じた亀裂から血液が内膜に流入し、外層と内層に解離させていく疾患。Stanford A型と Stanford B型に分類されます。

大動脈解離の定義・分類

分類

時期による分類 急性期  2週間以内
亜急性期 3週間から2ヶ月以内
慢性期  2ヶ月以降
部位による分類 Stanford A型
Stanford B型

破裂頻度と統計

A型急性大動脈解離 手術をおこなわなかった場合の死亡率は、発症より24時間以内が20%、48時間で30%、1週間で40%、1ヶ月で50%が死亡する。
解離の偽腔は将来瘤化する可能性がある。
遠位側の偽腔が閉塞する率は、10%以下。
B型急性大動脈解離 手術をおこなわなかった場合の死亡率は、1ヶ月で10%以下。
B型慢性大動脈解離 大動脈瘤拡大の因子は、1:動脈径40mm以上、2:偽腔に血流が存在。

症状

約70%~80%に胸背部痛があります。
手術を行わない場合(未治療の場合)の急性大動脈解離での合併症は発生率は以下のとおりです。

狭心症・心筋梗塞 3-7%
脳虚血 3~7%
上肢虚血 2~15%
下肢麻痺 4%
腸管虚血 2~7%
腎障害 7%
下肢虚血 7~18%

治療方針

時期と病型により治療方針が決まります。

手術治療

手術が必要な状態とは以下のような場合です。

急性A型大動脈解離 緊急手術
急性B型大動脈解離 瘤径が5cm以上・分枝の血流障害・切迫破
慢性A型大動脈解離 瘤径が5cm以上
慢性B型大動脈解離 瘤径が5cm以上※

瘤径が5cm以下の慢性大動脈解離は、発症後、3ヶ月、6ヶ月、1年、1年6ヶ月、2年、以降は1年毎にCTによる経過観察をおこないます。大動脈最大径が50mm以上となったら手術を考えます。

手術適応の根拠

以下の死亡率が手術を行うかどうかの根拠となっています。

死亡率 保存治療 手術治療
急性A型大動脈解離 55.9% 26.6%
急性B型大動脈解離 9.6% 32.1%

※つまり、保存療法(手術をしない)場合と手術治療を行った場合との死亡率を比較した場合、急性A型大動脈解離では手術治療の方が死亡率が低い(26.6%<55.9%)ので、手術治療となります。 また、急性B型大動脈解離では保存治療の方が死亡率が低い(9.6%<32.1%)ので、保存治療となります。

保存的治療法

手術適応とならない場合の治療については、保存的治療を行います。
保存的治療は大動脈解離リハビリテーションプログラムにのっとり、約3週間から4週間をかけて徐々に運動量を上げていくリハビリテーションを行います。

急性期 血圧の目標値は100~120mmmHg(上)とされているが科学的根拠は無い。
慢性期 血圧の目標値は130mmmHg(上)とされているが科学的根拠は無い。
日常生活に関しての制限はほとんど無い。
運動制限が必要であるという科学的根拠は無い。

※つまり、保存療法(手術をしない)場合と手術治療を行った場合との死亡率を比較した場合、急性A型大動脈解離では手術治療の方が死亡率が低い(26.6%<55.9%)ので、手術治療となります。 また、急性B型大動脈解離では保存治療の方が死亡率が低い(9.6%<32.1%)ので、保存治療となります。

補 足

偽腔閉塞型(早期血栓閉塞型)のA型急性大動脈解離
1. 偽腔閉塞型の内科治療をおこなったものの43%に解離の進行が見られ手術となっている
2. 大動脈径が50mmを超えるものは解離が進行する高危険群。
以上の理由により、合併症を持つものは緊急手術、大動脈径が50mmを越えるもの、形態に変化を認めるものなどが手術となります。

発生数(厚労省概算) 9000-10000人(年間)
手術件数(日本) 2500-3300件(年間)
年齢別発症のピーク 大動脈解離 男女とも50-70歳代
発症時期 夏場に少なく、冬場に多い。午前中に多い

大島医師による解説動画

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