胸腹部大動脈瘤とは?
川崎幸病院 川崎大動脈センター センター長/大動脈外科部長 大島 晋
胸部大動脈瘤とは大動脈径が拡大し50ミリを超えてくるものをいいます。大動脈瘤を放置すると破裂する危険性があり、その前に予防的治療が必要になります。治療は開胸手術による人工血管置換術とカテーテルによるステントグラフト留置術の2つに分けられます。
破裂頻度と統計
胸部大動脈瘤の年間破裂率に準じます。
大動脈の直径 | 破裂率 |
---|---|
40mm未満 | 0% |
40mm~49mm | 0%~1.4% |
50mm~59mm | 4.3%~16% |
60mm以上 | 10%~19% |
症状
胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤と同様にほとんどが無症状です。
治療方針
最大径50mm以上※(ガイドラインでは60mm以上)を手術適応としています。50mmに満たない場合も、半年から1年毎にCT撮影をおこない、経過を観察します。 手術は大動脈の直径が50mm以上の部分を中心に切除し、人工血管に置換します。手術方法は、病型分類により異なります。
病型分類 | 治療方針 |
---|---|
Ⅰ型 | 体外循環装置を使用し、肋間動脈(8番目から12番目の3~4対)の再建と、場合によって腹部4分枝血管の再建をおこないます。 |
Ⅱ型 | 体外循環装置を使用し、肋間動脈(8番目から12番目の3~4対)の再建と、腹部4分枝血管の再建をおこないます。 ひきつづき、腹部大動脈の再建をおこないます。 |
Ⅲ型 | 体外循環装置を使用し、腹部4分枝血管の再建をおこないます。ひきつづき、腹部大動脈の再建をおこないます。 |
Ⅳ型 | 体外循環装置を使用せず、腹部4分枝血管の再建をおこないます。つづき、腹部大動脈の再建をおこないます。 |
治療法
胸腹部大動脈瘤人工血管置換手術(おもにⅡ型の方法を記載します)
胸腹部大動脈瘤(下行大動脈から腹部大動脈全長に渡る動脈瘤)に対する手術です。 下行大動脈瘤と同様に左開胸(左の脇の下に30cmほどの皮膚切開をおき、左側の上から5番目の肋骨の間を開いておこなう)でおこないますが、さらに開腹をおこない、 胸部から腹部までの大動脈を同時に置換する手術です。体外循環も下行大動脈瘤と同様におこない、心臓は動かしたままで体温も下げません。 腹部臓器(肝臓、腎臓、腸管)に血液潅流や保護液の注入をおこない臓器を保護します。 1) 近位下行大動脈、2) 肋間動脈、3) 腹腔動脈、4) 上腸間膜動脈、5) 左右腎動脈、6) 遠位腹部大動脈をそれぞれ人工血管に吻合し、 血流を再開して手術を終了します。“最難関の大動脈手術”といわれていますが、当センターでは標準的手術に属します。
合併症予防
脊髄障害
手術中の脊髄液ドレナージ、末梢大動脈血液灌流、各種脊髄保護関連薬剤の使用、中等度低体温療法などにより、脊髄障害の予防が可能となっています。
腎障害
この手術では一時的に腎臓の血流を止めるため、適切な腎保護法が必要です。定期的に腎保護液を腎臓に注入することにより、手術に伴う腎機能低下は、ほとんどなくなりました。