マルファン症候群とは?
定義
大動脈瘤の原因の一つにマルファン症候群があります。マルファン症候群の患者さんは、体内のコラーゲンを形成する遺伝子に異常があり、特定のコラーゲン繊維の形成がうまくできません。 大動脈の壁は3層構造になっており、その真ん中の中膜と呼ばれるところに多くのコラーゲン繊維が多くあります。この中膜は血管に弾性を持たせると同時に外膜と内膜をくっつける役割も果たしています。 マルファン症候群ではこの中膜においてコラーゲン繊維が形成できないため、大動脈壁が脆くなります。そのため大動脈瘤ができやすく、また大動脈解離も起こりやすくなります。 特に心臓から大動脈が出ていく場所である基部が大きくなって大動脈瘤ができ、そこから解離がおこることに注意が必要です。また基部の拡大により心臓の弁膜症も同時におこります。
身体的特徴
身体的特徴として、四肢の指が長く、高身長で胸郭の変形があることが多く、また眼の水晶体がずれていることもあります。
遺伝性疾患
マルファン症候群は5,000~10,000人に1人の比率で起こり、両親どちらかの遺伝子を受け継ぐことで発症することが多いため、突然死や大動脈解離の家族歴が多く認められます。 しかし、両親から遺伝子異常を受け継ぐのではなく、本人の遺伝子が突然変異を起こしてこの病気になる方も約25%程度います。
治療方針
弁膜症の治療法は、自己弁を温存する形成術と、弁を交換する置換術に分けられます。さらに置換術は動物の弁を使った生体弁置換術と、金属を使った金属弁置換術に分けられます。 形成術は難しい手術ですが、最近は形成術の成績が改善し、比較的長期間にわたり再手術を避けることができるようになり、いままで置換術を行っていた患者さんが自己弁を温存できるようになりました。 この方法ではワーファリンという抗凝固剤を使用しなくてすみます。ワーファリンは脳出血などを引き起こす可能性があるとともに、胎児の奇形を引き起こす可能性があるため、若年者、特に妊娠可能な年齢の女性には形成術が望ましいと思われます。 しかし、すべての患者さんが自己弁を温存した形成術ができるわけではなく、術前の弁の傷み方で置換術にせざるを得ないこともあります。
一方、置換術に関しては若年者の場合は、生体弁より耐久性の高い機械弁を選択することが一般的ですが、機械弁を装着すると、ワーファリンは必須となります。 しかし、機械弁は場合によっては一生使うことができて、再手術が不要である可能性があることが優れた点です。マルファン症候群の方は大動脈が基部から総腸骨動脈まで解離や瘤形成が起こる可能性があり、生涯に複数回の手術が必要となることがあります。 そのため患者さんによっては、弁に関して再手術の可能性の少ない機械弁を選択する方もいます。
補足
マルファン症候群の患者さんは、一般的に3ー4回の大動脈手術が必要になります。とくに大動脈の基部の手術と、胸部から腹部にまたがる胸腹部の手術の難易度が高く問題となります。当センターではどちらも極めて症例が多くかつ成績も良好です。 一般的な近年の傾向として、特に胸腹部の手術の成績が不良であるためステントグラフトでの治療が増えてきています。しかしステントグラフトによる治療の長期予後が十分に示されているとは言えず、さらにマルファン症候群に関しては長期予後のデータはさらに不十分と思われます。 また再手術に至るケースも日本中から当センターに紹介されて年々増加傾向にあり、その手術はより難易度が上がり、脳梗塞などの合併症の可能性も高くなります。 当センターではマルファン症候群のような遺伝的に血管の脆弱性のある方や若年者に対しては、極めて良好な手術成績を背景に、ステントグラフトによる治療ではなく、より確実な人工血管置換術を優先しています。
最後に
リハビリや人工心肺技師、医師、看護師の技術の向上、専門化により手術成績を改善させ、より耐久性の高い治療を求めた結果、待機的な胸腹部大動脈人工血管置換の当センターにおける手術死亡率(2012-2019.6)は2.9% (8/274)まで改善しています。 そのため当センターには日本中から大動脈の手術をするために患者さんが集まり、胸部大動脈の手術件数は日本一です。その中にはマルファン症候群、もしくはマルファン症候群類縁疾患の患者さんも数多く含まれていています。 マルファン症候群の手術は一般の手術より難易度が高いとされていますが、当センターは国内において、マルファン症候群の患者さんの手術を非常に数多く行っている施設の一つです。 破裂、解離などが起こる前に計画的に手術を行っていけば、一般の方と同じような寿命をまっとうすることができますので、安心してお任せください。