一般的な腹部大動脈瘤ステントグラフト治療の適応基準は以下の通りです。
身体的な適応基準として
- 過去に開手術の既往があり、癒着により手術が困難と予測される場合。
- 心疾患、呼吸器疾患、脳血管疾患等のため開腹手術が危険と判断される場合。
解剖学的な適応基準として
- 腎動脈下腹部大動脈瘤
- 腎動脈下大動脈に正常大動脈15mm以上
- 60度以下の屈曲
- 総腸骨動脈の拡大15mm以下
- 腸骨動脈の正常部分の長さが10mm以上
身体的な適応基準として
解剖学的な適応基準として
今後もますます技術が進歩し成績が向上することが期待されます。ただし、手術治療が50年以上の歴史があるのに比べて、現時点でのステントグラフト治療の歴史は10数年程度であり、20年、30年といった長期の成績は不明です。また、ステントグラフトは動脈瘤の解剖学的特性によりその成績が影響されるため、解剖学的適応基準に準拠することが使用の条件となっています。
権威ある医学雑誌Lancet誌にも腹部大動脈瘤の前向き比較試験で、術後四年間での動脈瘤関連死は外科手術よりもステントグラフト治療の方が有意に低いことが証明されています(Lancet 365: 2179, 2005)。10年前と比べると最近の企業製ステントグラフトは改良がすすみ、治療成績も格段に向上しています。
1990年にアルゼンチンのパロディ医師によって始められた自作ステントグラフト治療は、欧米では2000年ころから数々の企業製品が出現し、成績も飛躍的に向上しています。日本では2007年から欧米の企業製腹部大動脈ステントグラフトが認可され、国内でも使用可能になりました。
ステントグラフト治療と手術治療とバランスよく行っている施設での診断、治療が必要です。
手術治療のみ行っている施設であれば、一般にステントグラフトが良いであろうと思われる例でも、手術を勧められる場合があります。同様にステントグラフトが主で、手術治療はほとんど行っていない施設にでは、一般に手術治療が良いであろうと思われる場合にもステントグラフト治療を勧められる事が多いと思われます。その結果、最終的には手術が必要になってしまう場合があります。一般的にステントグラフト後の手術は、初回手術よりも非常に困難な手術となってしまいます。手術をあまり行っていない施設では、選択肢がステントグラフトに限られるだけでなく、そういったトラブル時の手術対応も困難となる可能性もあります。ステントグラフト治療は、とりあえず出来そうだからやってみるのではなく、ステントグラフトを入れた結果がどうなっていくかを考慮し判断する事が非常に大切です。ステントグラフト治療と手術治療の両方をバランスよく行っている施設で適切な診断、治療を受けることをお勧めします。
川崎大動脈センター/血管内治療部門は、専門の大動脈外科医・放射線科医・循環器内科医・臨床工学士によって構成しており、診断から治療まで一貫した方針により適切な治療を行います。
特有な合併症として、エンドリーク(動脈瘤内に血流が残ること)、ステントグラフトの移動などが稀にみられることがあります。言い換えれば、治療したはずの大動脈が拡大・破裂する危険性もゼロではありません。そのため、治療後もCT等による追跡調査が必須であり、追加の治療(ステントグラフトの追加・開胸や開腹手術)が必要になる場合もあります。
ステントグラフトとはステントといわれる金属でできたバネの部分をグラフトと言われる人工血管で被覆したものです。これを血管の中に留置することにより、瘤に直接的に血圧がかからないようになり、破裂の予防を行うことができます。ステントグラフトは折りたたんで、直径7-10mm程度のカテーテル内に収納し、足の付根から動脈内にカテーテルを入れ、放射線イメージをみながら胸部や腹部の動脈瘤の部分に留置します。
この方法だと両脚の付け根(ソケイ部)を数cm切開するだけで治療が行えるため、胸部や腹部を大きく切開する必要がなくなり、患者さんの体に対して、より少ない負担で動脈瘤の治療ができるといわれています。
偽腔閉塞型(早期血栓閉塞型)のA型急性大動脈解離
以上の理由により、合併症を持つものは緊急手術、大動脈径が50mmを越えるもの、形態に変化を認めるものなどが手術となります。
発生数(厚労省概算) | 9000-10000人(年間) |
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手術件数(日本) | 2500-3300件(年間) |
年齢別発症のピーク | 大動脈解離 男女とも50-70歳代 |
発症時期 | 夏場に少なく、冬場に多い。午前中に多い |
手術適応とならない場合の治療については、保存的治療を行います。
保存的治療は大動脈解離リハビリテーションプログラムにのっとり、約3週間から4週間をかけて徐々に運動量を上げていくリハビリテーションを行います。
急性期 | 血圧の目標値は100~120mmmHg(上)とされているが科学的根拠は無い。 |
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慢性期 | 血圧の目標値は130mmmHg(上)とされているが科学的根拠は無い。 日常生活に関しての制限はほとんど無い。 運動制限が必要であるという科学的根拠は無い。 |