尾﨑医師の現地レポート㉒inタイ

以前滞在していた CMU(Chiang Mai University)にて、2R/DHCA(Loeys–Dietz症候群)と 2R+ステントグラフト除去(FEVAR) の2件を行ってきました。
2R/DHCAでは、中枢吻合以降を KAC卒業生の Dr. Pan に任せ、細かいポイントを説明しながら彼の成長を確認できる、とても良い機会となりました。
また、すべてのスタッフとコミュニケーションをとる中で、「術前から手術は始まっている」「術中から術後管理は始まっている」という認識が徐々に共有されてきていると実感しました。
さらに、来年から STST の学会長に就任される Dr. Surinと、今後の継続的な協力関係に向けた話し合い・確認も行うことができました。
さらなる発展のために、お互い日々の仕事をコツコツ積み上げていければと思います。

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再びふくらむ大動脈瘤──ステントグラフト後の再拡大にどう向き合うか

3日連続、左開胸胸腹部大動脈人工血管置換術にてステントグラフト留置後の動脈瘤再拡大を治療しました。慢性大動脈解離では偽腔に細い肋間動脈が開いているだけでも再拡大している症例も多々あります。
腹腔動脈が偽腔起始の症例は比較的早い2,3年で胸腹部大動脈瘤が大きくなります。
またステントグラフトの挿入された大動脈外膜は周囲のリンパ組織と癒合し薄くなっています。そして時には食道瘻を引き起こします。
偽腔血栓は慢性DICで出血しやすい状況になり、皮膚切開の段階から出血しやすいのが分かります。
またステント抜去の際には大量の血栓が脳梗塞のリスクを上昇させ、慢性大動脈解離に対してのステントグラフト治療は偽腔のコントロールができないので行うべきではないと考えます。
手術の結果が良くならないからと言って、ステントグラフトを第一選択にするのではなく手術の方法と技術を定型化して安全に行えるようにすることが先決ではないでしょうか。

I performed three consecutive left thoracoabdominal aortic graft replacements to treat aneurysmal re-enlargement after previous stent-graft implantation. In chronic aortic dissection, even small intercostal arteries communicating with the false lumen can maintain flow and lead to gradual re-expansion. When the celiac artery originates from the false lumen, thoracoabdominal aneurysms tend to enlarge rapidly within two to three years. The adventitia of the stent-covered aorta often becomes thin and adherent to the surrounding lymphatic tissue, sometimes progressing to an aorto-esophageal fistula. Thrombosed false lumens may cause chronic DIC, creating a hemorrhagic tendency apparent even at skin incision. During stent removal, massive thrombus migration can increase the risk of cerebral infarction. Endovascular repair for chronic aortic dissection cannot adequately control the false lumen and therefore should not be performed. Instead of resorting to stent grafts simply because surgical results are suboptimal, efforts should focus on standardizing and refining open surgical techniques to ensure safety and reproducibility.

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命を支える人工血管──イタリアの工場で見た“手作りの精密さ”

グラスゴー(イタリア)にある医療製品メーカー工場を訪問する機会に恵まれました。人工血管一つ一つが丹念に手作業で作られ、その後数え切れないほどの検査工程を経ているのを見て、心から驚きました。 品質管理において、あらゆる面で万全を期していることが伺えました。 従業員は仕事に強い誇りを持っており、素晴らしい職場で素晴らしい仕事を続けていることは間違いありません。

I had the opportunity to visit a medical products manufacturer’s factory in Glasgow. I was truly amazed to see how each vascular graft is painstakingly made by hand and then undergoes countless inspection processes. It was clear that they take every aspect of quality control seriously. The employees take great pride in their work, and there’s no doubt they continue to do great work in a great place to work.

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尾﨑医師の現地レポート㉑inタイ

昨日、タイ南部の Maharaj Nakhon Si Thammarat Hospital にて 左開胸によるTAR(lt thoracotomy TAR) を行ってきました。
KAC卒業生のDr. Chor がチーフを務める施設です。
さらに、Chiang Mai、Yala、Hat Yai など遠方からも医師やperfusionistが手術に参加してくれました。
先日、タイ国内でperfusionistの学会があったそうですが、左開胸手術における心筋保護法としての systemic KがKAC式としてトピックになったとのことです。センターとして非常に誇らしいことだと思います。
perfusionistを含め、すべての面で行き届いた KAC の洗練さを日々実感しています。


川崎大動脈センターでは、2024年12月から新たな試みとして当センター医師を年単位でタイに派遣しKAS: Kawasaki Aortic Surgeryを普及するprojectを開始しています。
詳しくは国際研修活動ページをご覧ください。

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尾﨑医師の現地レポート⑳inタイ

昨日、台湾Buddhist Dalin Tzuchi Hospital の Dr. John が、現在私の所属している Siriraj Hospital に見学に来てくれました。
彼は昨年冬に KAC を見学に来てくれた先生です。
今回、Tzuchi Hospital と Siriraj Hospital のつながりを作ることもできました。
KAC をきっかけに、アジア各国が協力し合える関係を築いていけたら嬉しいです。


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命に敬意を込めた手術トレーニング

先日台湾の花蓮にて行われたTSVS cadaver workshop に参加しました。
胸腹部大動脈人工血管置換術をStep-by-stepで解説し、その翌日、翌々日と手術のアシスタントを行いました。
今回もcadavers workshop に先立ち、花蓮慈濟病院ではsilent mentors の方々にご挨拶と感謝のお祈りを行ってからの実技でした。
日本では数少ないcadaver workshop ですが、普段の手術室では細かく教えることの難しい手技をゆっくりと教え、実践してもらい、台湾の先生方に沢山のことを教えることが出来ました。

ステントグラフトが治療の中心になり、ほとんどの医師が左開胸手術を知らない台湾では、このような機会が本当に大切だと思います。
また様々な台湾の先生方のお力添えもあり、このような関係がこれからも続けられることに本当に感謝しています。

I recently had the opportunity to participate in the TSVS Cadaver Workshop held in Hualien, Taiwan.
During the session, I gave a step-by-step explanation of thoracoabdominal aortic graft replacement surgery. On the following two days, I assisted in live surgeries.
Before the workshop began, we visited Hualien Tzu Chi Hospital to express our greetings and prayers of gratitude to the silent mentors who had selflessly donated their bodies for medical education.
Cadaver workshops are still rare in Japan, but they offer a valuable opportunity to teach delicate surgical techniques that are difficult to demonstrate in a regular operating room.
It was truly fulfilling to take the time to instruct, demonstrate, and share surgical knowledge with many doctors in Taiwan.
As stent grafts have become the mainstay of treatment, very few surgeons in Taiwan now perform left thoracotomy operations. That is why opportunities like this are so important for preserving open surgical techniques.
I am deeply grateful to all the Taiwanese colleagues and mentors who made this meaningful exchange possible. I sincerely hope that our collaboration will continue in the future.

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尾﨑医師の現地レポート⑲inタイ

昨日、King Chulalongkorn Memorial Hospital にて、Kommerell’s diverticulum、右大動脈弓、左鎖骨下動脈起始異常に対して、DSR/DHCA+左鎖骨下動脈再建を行ってきました。
二週間前の訪問時には不在だったDr. Chanapornも、今回は会うことができました。
彼は旧病院でトレーニングを積んだ先生です。


来年4月ごろには、同院から医師・看護師・perfusionistを含むチームで、KAC への訪問が予定されています。
特に人工心肺操作に関して、冷却・復温の方法や、灌流量および血圧のコントロールについて、KAC のやり方を学びたいとのことでした。
このような、doctorだけにとどまらないチーム間の強い協力関係が、双方の発展につながればと思います。


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尾﨑医師の現地レポート⑱inタイ

昨日、King Chulalongkorn memorial hospitalにて1R/DHCAを行ってきました。
私が今在籍しているRiriraj hospitalの次に長い歴史があり、大学は最難関とされている病院です。
Chief Dr Juleは現在STST(Society of Thoracic Surgeons of Thailand)のsecretary であり、私のプロジェクトに際して色々と尽力してくれました。
一緒に手術をしたDr.Khiewは来年KACに勉強に来るようです。
最近のオファーはほとんどが左開胸です。難しいと”思っていた”手術でも安全に患者さんを助けられるということを知ってもらい、ますますKACで勉強したいと思えるようなクオリティを示していきたいと思います。


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尾﨑医師の現地レポート⑰inタイ

週末、レジデント向けのWorkshopをしてきました。
大動脈の吻合の基礎というテーマでしたが、普段やっていることを言語化して教えるのは自分自身の良い練習にもなりました。
レジデントは3学年合わせて15人ほどいましたが、レクチャーの後、hands-on practice中にもたくさんの質問を受けました。
積極的に学ぼうとする若者を見ると、さらに教えたくなりますし、自分もさらに精進せねばと良い刺激をもらえます。
教わる姿勢は教わるチャンスを作れます。
歳を重ねるとプライドが意地をはって、教えてもらうことに対して抵抗を覚える人が多いように思います。
若者を見て、自分も襟を正す良い機会になりました。


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「この出っ張り、何ですか?」-人工血管と再手術の現実

2-debranched TEVARを施行した患者さんの再手術は極めて困難です。
多重のステントグラフトはトリミングするだけでも苦労します。
さらに、ネックレス状に胸骨前面に留置された左右腋窩動脈バイパスは開胸を制限し、手術の難易度を高めるだけでなく、将来の治療選択肢を奪ってしまいます。

外来で患者さんが「この胸骨前の出っ張りは?」と、人工血管の盛り上がりを指差して聞かれると、十分な説明(再手術制限や動脈瘤再拡大リスクなど)があったのか疑問に思います。高リスクで開胸不可の患者ならともかく、若い方にこの手術は避けるべきだと強く感じます。

Reoperation after 2-debranched TEVAR is extremely challenging. Overlapping and trimming multiple stent graft layers is a real struggle. Plus, the bilateral axillary artery bypasses—placed like a necklace across the front of the sternum—limit sternotomy. This doesn’t just raise surgical difficulty; it robs future treatment options. In clinic, patients point to the bulge from the artificial graft and ask, “What’s this lump in front of my chest bone?” It makes me question: Were they fully explained about reoperation limits and aneurysm re-expansion risks? For high-risk patients where opening the chest is impossible, okay. But for younger ones? I strongly believe we should avoid this surgery. Prioritize options that preserve choices. Thoughts?

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