大動脈疾患の治療に求められるのは、一過性ではない『持続性』だ— Morad教授を迎えて

先日、当センター(KAC)にMorad教授をお招きしました。教授と共に症例を振り返る中で、私たちは改めて「患者さんにとっての真の利益」について深く考えさせられました。

「治った」はずなのに、なぜ?

先日、ある患者さんが運ばれてきました。 その方は以前、別の病院で「TEVAR(ステントグラフト内挿術)」治療を受け、「もう治りましたよ」と言われていたそうです。

しかし、現実は違いました。 大動脈瘤は80mmという破裂寸前の大きさにまで膨らんでおり、一刻を争う緊急の開胸手術が必要な状態だったのです。

– 技術が悪いわけではありません

ステントグラフトという治療自体は素晴らしいものです。体に負担が少なく、適切なケースで使えば非常に高い効果を発揮します。

問題は、デバイス(道具)の性能ではなく、

「その患者さんに、本当にその治療が合っていたのか」

という判断のプロセスにあります。

「できる治療」と「すべき治療」は違う

特に若い患者さんや複雑な病状の方の場合、目先の「負担の少なさ(カテーテル治療)」だけで選んでしまうと、数年後に再発や悪化を招くリスクがあります。

医療の世界には、こんな言葉があります。 「できること(Can do)」が、必ずしも「すべきこと(Should do)」ではない。

カテーテルで「何とか治療できてしまう」からといって、それが「一生安心できるベストな選択」とは限らないのです。

私たち医師に求められるのは、自分の施設でできる治療を無理に勧めることではありません。

「この患者さんには、もっと確実な手術ができる専門センターでの治療が必要だ」と判断したとき、迷わずそこへ橋渡しをする「紹介する勇気」こそが、本当の「患者さん中心の医療」だと私は信じています。

私は年間600例もの大規模な外科手術(開胸手術)を通して、この教訓を何度も、痛いほど学んできました。

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20代・30代の大動脈解離を防ぐ『早期発見』の力

長身で指が細長く、強い近視や胸の変形がある…家族に若い頃の突然死があった… そんな方はマルファン症候群の可能性があります。

日本に約2万人。

大動脈が静かに弱くなり、20-30代で突然解離→死亡のリスク。
しかし早期発見で心エコー+薬+予防手術が可能。寿命はほぼ健常人と変わりません。

マルファン症候群の遺伝形式常染色体優性遺伝(親が保因者なら子に50%)。
家族性75%、新生変異25%。浸透率ほぼ100%ですが、表現度は家族ごとに大きく異なります。

-似た病気との違い

マルファンに似た病気もあります。
・Loeys-Dietz症候群:より激しく広範囲に大動脈が弱くなる
・血管型Ehlers-Danlos症候群:動脈や臓器が破れやすい
・先天性拘縮性蜘蛛指症:関節が固くなりやすい
・Shprintzen-Goldberg症候群:頭の形や知的面にも影響
・ホモシスチン尿症:治療できる血液の病気

正しい鑑別診断が命を守ります。

気になる方は、ご相談ください。 早期発見で予防手術や薬で、普通の生活が送れます。

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働き盛りに伝えたい、スタチンが『血管のバリア』として命を守る理由

働き盛りの40代・50代の皆様へ。

健康診断でコレステロールの高さを指摘され、お薬(スタチン)が出たものの、多忙や不規則な勤務から「つい飲み忘れる」「まあいいか」となっていませんか?

日々、手術現場で直接「動脈硬化の進んだ血管」を診ている外科医の立場から、この薬を

「毎日しっかり飲むべき本当の理由」

をお伝えします。


スタチン系薬剤(クレストールなど)は、単に検査数値を下げるだけではありません。最大の恩恵は「血管内の炎症を抑え、血管の壁に溜まったドロドロの脂の塊(プラーク)を、破れにくく丈夫な状態に安定させること」です。(専門的にはプレイオトロピック効果と呼びます)

薄い膜で覆われたプラークが破れると、血栓ができて血管が詰まります。
スタチンはこの表面の膜を分厚くし、心筋梗塞や脳卒中といった致命的な発作を未然に防ぐのです。

- 「1日飲み忘れたら一気に悪化する?」

と心配される方もいますが、現在主流の薬は体内に長く留まるため、直ちに深刻な事態が起きるわけではありません。
しかし、飲み忘れが常態化すると、せっかくの「血管保護バリア」が維持できなくなります。血中濃度を一定に保つことこそが、生活習慣病の悪循環を断ち切る最大のカギです。


- 薬の恩恵を最大限に受けるには

毎日規則正しく飲むこと(コンプライアンス)が圧倒的に有利です。
夜勤などで不規則な方は、無理に夜に飲もうとせず「朝のコーヒーの時」や「昼食後」など、1日の中で『絶対に忘れないタイミング』に固定してしまうのも有効です。

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【ご報告】台湾血管外科学会(TSVS)との協力覚書(MOU)を締結いたしました

川崎大動脈センター(KAC)と台湾血管外科学会(TSVS)の間で、協力覚書(MOU)の調印式が執り行われました。本式典は、両組織の長年にわたる交流を祝すとともに、学会規模での新たなパートナーシップを確立するものです。

プレゼンテーションでは、KACの基本理念や豊富な手術実績、世界トップレベルの治療成績、そして国際協力への取り組みが紹介されました。両組織のリーダーは互いに敬意を表し、教育的交流や共同研究、長期的な協力体制を通じて大動脈外科を発展させていくという共通のビジョンを掲げました。

Ceremony marks the formal signing of a Memorandum of Understanding (MOU) between the Kawasaki Aortic Center (KAC) and the Taiwan Society for Vascular Surgery (TSVS). The event celebrated a long-standing relationship and established a new, society-wide partnership. Presentations highlighted KAC’s guiding philosophy, extensive surgical history, world-class outcomes, and commitment to international collaboration. Leaders from both organizations expressed mutual respect and outlined a shared vision for advancing aortic surgery through educational exchange, joint research, and long-term cooperation.

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海外交流「川崎の方法に変えてから救命率が上がった」

「川崎の方法に変えてから救命率が上がった」 この一言が、日々の手術の意味を再確認させてくれる。
タイ、イギリス、台湾…各国との交流は、我々の臨床判断を常にアップデートしてくれる貴重な機会。

彼らは年間10-20例の感染性大動脈瘤を執刀。
developing countriesならではの症例数。
我々が提案した治療戦略を導入後、成績が向上したとの報告。
国際交流の意義を実感―---。

我々が推奨する感染性大動脈瘤に対する二期的TEVAR戦略
第1期:TEVARで血管を緊急安定化  

↓(約1週間)

第2期:ステントグラフト除去+開胸手術 「ブリッジング療法」として確立。
一期的TEVARのみでは死亡率が高く、感染制御が困難。

タイの先生がこの戦略を採用した結果、治療成績が向上。

「川崎の方法に変えてから救命率が上がった」

年間600件の実績から生まれた知見が、海外でも患者さんを救っている。これこそ国際交流の価値。

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胸部大動脈手術過去最高件数(2026年1月)

2026年1月、川崎大動脈センターの胸部大動脈手術は月間69件と過去最高を記録しました。

特筆すべきは、高度な技術を要する「左開胸手術」が24件にのぼること。
これほどの症例数を1ヶ月で行う施設は、全国的にも類を見ません。
ステント(TEVAR)留置後の動脈瘤再拡大など、難易度の極めて高い症例にも応え続ける。
圧倒的な経験値があるからこそ、救える命があります。
今後も「最後の砦」として、チーム一丸となって日本の大動脈治療を牽引していきます。

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【番外編】尾﨑医師の現地レポート㉙inタイ(帰国後初のタイ講演)

週末、バンコクにて The 40th Annual Meeting of STST(The Society of Thoracic Surgeons of Thailand) に参加してきました。
多くの再会があり、まだ帰国して2ヶ月たっていないものの、非常に感慨深い機会となりました。

私のタイ滞在中には直接会うことができなかったというドクターからも多く声をかけていただき、改めて KAC の影響力を実感しました。
また、endovascularを専門とするドクターからも相談を受けるようになり、タイにおける大動脈治療に対する意識やマインドが変化してきているのではないかと感じました。

年次報告では、私の滞在について、ならびに11月に行われた MOUの再締結に関する報告もありました。
KAC と STST の長年にわたる友情と協力関係が、今後さらに強固なものになっていくことを確信しています。両国、アジア、世界のためにも「高いクオリティでこのセンターを維持・継続すること」が我々の使命です。


川崎大動脈センターでは、2024年12月から新たな試みとして当センター医師を年単位でタイに派遣しKAS: Kawasaki Aortic Surgeryを普及するprojectを開始しています。
詳しくは国際研修活動ページをご覧ください。

尾﨑医師のタイレポート全28回はこちらからご覧いただけます

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大動脈センター初診外来。

どの患者さんもご家族と悲壮な顔で来院してきます。
夫を心配して泣く奥さん、
「おばあちゃん長生きして」と言うお孫さん、
唯一の肉親である弟を案ずるお兄さんなど。

愛されている患者さんがあまりに多くて、診断を伝える側としても、その背景にある「家族との絆」が感じ取れる。 今日もそんな外来でした。

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川崎大動脈センター 2025年総括

🔹 待機・準緊急の開胸大動脈手術:423例
🔹 緊急手術:192例
🔹 待機手術死亡率:0.5%(2例)

私たちのチームは、発生したすべての合併症を徹底的に検証しています。
来年の目標はただ一つ──死亡率0%。


ハイライト

  • 88歳のTAAA(胸腹部大動脈瘤)修復術92歳のAAA(腹部大動脈瘤)修復術が成功し、両名とも退院しました
  • FET/TEVAR後の大動脈‐食道瘻が増加し、気管分岐部周辺に集中していることを確認。
  • 重要な教訓:徹底した(ラディカルな)デブリードマンは妥協不可。高安動脈炎の複雑症例により、周術期管理戦略が大きく試されました。
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尾﨑医師の現地レポート㉘inタイ(現地レポート最終回)

昨日、KACとSiriraj HospitalのMOU締結、KACとSTST(The Society of Thoracic Surgeons of Thailand)とのMOU更新、さらに私の一年間の滞在に対するセレモニーが行われました。

山本先生にはKACの始まりの歴史をご紹介いただき、大島先生からはKACの概要および成績についてご講演いただきました。
また、LIVEケースではre-3R(腎動脈上での吻合)を施行し、普段は見学に来られないドクターにもKACの手術を共有する機会となりました。
すべてのセレモニーが滞りなく終了し、今後の協力関係をこれまで以上に強固なものにできたと感じています。
お互いに良い点を学び合いながら、アジア、そして世界の大動脈治療に貢献できると強く実感した時間でした。
我々の一つ一つの取り組みが、確かに歴史をつくっているのだと思います。


不安もありましたが、タイのドクターやスタッフとの協力、そして何よりKACからのサポートに支えられ、勇気づけられ、この一年を走り抜くことができました。本当にありがとうございました。


川崎大動脈センターでは、2024年12月から新たな試みとして当センター医師を年単位でタイに派遣しKAS: Kawasaki Aortic Surgeryを普及するprojectを開始しています。
詳しくは国際研修活動ページをご覧ください。

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